書評

伊集院静「琥珀の夢」の感想~鳥井信治郎から学ぶ~

伊集院静さんの著書「琥珀の夢」は、日経新聞で連載していた小説を単行本にしたものです。

新聞小説という形式であるからか、全てハイライトというような面白さを含んでいます。

読後はとても満足感でいっぱいでした。

私が初めて伊集院静さんを知ったのは、名文学作品「乳房」を読んだとき。

荒々しくも繊細で、人間の習性を的確にとらえている方なんだなぁと思いました。

伊集院静さんは、この「乳房」で第12回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

調べてみて面白いと思ったのが、作詞活動もされているということ。

あの近藤真彦さんの名曲「ギンギラギンにさりげなく」も伊集院さんが作詞です。

そんなマルチな才能を持つ伊集院静さんの小説は、他の作家にはない風情や情緒を感じます

 

ええもんを作るために人の何十倍も気張らんとあかん

この本は、経営の神様と呼ばれた鳥居信治郎の人生について書かかれたものです。

「経営の神様」というワードだけでも、興味をそそられちゃいますよね。

冒頭には、幼き頃の松下幸之助(大手家電メーカーのパナソニックを作った経営者)と洋酒店の主人であった鳥井信治郎のエピソードがあります。

 

p.12

ええもん作るためなら百日、二百日かかってもええん。ええもんのために人の何十倍も気張らんとあかんのや。そうしてでけた品物には底力があるんや。わかるか、品物も、人も底力や

そういって信治郎は少年の頭をやさしく撫でた。

 

これは、店の洋酒に見惚れている幸之助を見つけた時に、信治郎が言った言葉です。

確かに信治郎が言う通り、短時間で作られたものには即効性はあっても深みがない

もちろん、ただ時間をかければ良いという訳ではないです。

しかし、作品には作者の葛藤や苦悩が如実に現れてますので、それは正直に相手に伝わるものです。

私自身、ブログを始めた最初の頃は、内容の弱い記事ばかり書いていたような気がします。

それは、「良いものを書こう」、「良いものを相手に届けたい」という気持ちが弱かったから。

つまり、「ブログを更新しなきゃ」という気持ちの方が強かったからだと思います。

最初の頃はそれでいいですが、それでは良い結果が返ってくることはありませんでした。

なにより自分が許せなくなります。

相手も自分も満足するために努力をすることは、成長する上で欠かせないファクターです。

話を「琥珀の夢」に戻しましょう。

幸之助は生涯、信治郎の言葉とその恩を忘れませんでした。

鳥井信治郎を”商いの師”としたと言われています。

「経営の神様」にここまで思わせる鳥井信治郎とはどういう存在なのか、ワクワクしてきますよね。

ここから、鳥居信治郎のストーリーが始まります。

 

陰徳の大切さ

明治十二年一月三十日の夜明け方、鳥居信治郎は誕生します。

父は釣鐘町で両替商を営む、三代目鳥井忠兵衛(当時四十歳)、母はこま(当時二九歳)です。

信治郎は、母に連れられて頻繁にお寺にお参りに行っていました。

そこで、道中に母から物乞いにお銭をあげるよう言われます。

また、同時にお銭をあげた後絶対に振り向いてはいけないときつく言われてもいました。

なぜ、振り向いてはいけないのか。

信治郎は理由がわからず今日こそは振り向こうと意気込みます。

しかし、それがバレてしまい、普段全く怒らない母が激怒したのでした。。

「陰徳」という言葉をご存じでしょうか?

この場合、信心を得るのは物乞いにお銭をあたえた方なのです。

自分のために行っていることだから、それを受け取った相手の様子伺ったりなどしてはいけないのです。

人間はどうしても、良いことをするとそれを周りに伝えがちです。

しかし、その行為は自分に対して逆効果になるということですね。

いくら良いことをしても、結局相手から良く思われたいとか周りから評価されたいなどの考えがあると全く意味がない、むしろ害になります。

これは本当に良く分かります。

今の時代、自分の行った善行を口頭で伝えたりしている人がいますよね。

また、ネットワークを介して伝えたりすることが普通になってきました。

もちろん一概に全てそうだとは言わないが、あまりよろしい行動ではないと私は思います。

私はそういったことについて、昔から気持ち悪さを感じていたため、この本を読んで強く納得しました。

なるほど、これが陰徳というのかと。

やらない善より、やる偽善という言葉がある。

たしかにそうですが、それは陰徳をわきまえていた場合にのみ通用する言葉であることは忘れてはいけないと思います。

 

まとめ

・相手も自分も満足するための努力をしよう

・陰徳を心がけよう

 

私は本書を読んでこの2つの事を学ぶことが出来ました。

みなさんも、本書を手に取って自分の生活を振り返ってみてはいかかでしょうか。

 

 

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